せっかくシャレをきかすなら

「フィアット500X」はなんともシャレのきいたクルマである。まあ、現代の「500」がもともとジョークのような企画だから、シャレがきいているのは当然といえば当然だ。
ただ、500に膨張剤を混ぜてプックリとふくらませたような500Xの姿には、1950~70年代のオリジナル「ヌオーバ500」に心酔する信者に「コレジャナイ!」といわしめる悪ノリ感が、いよいよ強まっている気もする。

500Xという車名の末尾Xはいうまでもなく“クロスオーバー”を意味するものだろう。ただ、せっかくシャレをきかすなら「ジャルディニエラ」や「ムルティプラ」など、往年の「500/600」の由緒正しい派生名を使ったほうがウケたのでは……とも思う。だって「アバルト」では「595」とか「695」とか、あるいは「アセットコルサ」など、往年の車名をけっこう大胆に活用しているではないか。

もっとも、ジャルディニエラはステーションワゴン名だったので、500Xとは微妙に立ち位置がちがう。また、ムルティプラはそもそもミニバン名で、なおかつ数年前まで別モデルで使われていた生々しい記憶があるので、使いにくかったのもしれない。
だとすれば、500/600系ではないけど「カンパニョーラ」はどうか。初代カンパニョーラはまさしく「フィアット版ジープ」だったから、ジープとの共作であるこのクルマにもうってつけ……と思ったら、自動車名としてのカンパニョーラの商標はイヴェコが持っていて、「イヴェコ・カンパニョーラ」というSUVも現役で売っているっぽい。残念。

閑話休題。いつの間にか、500Xというクルマ本体とはまるで関係のない話になってしまった。ただ、マニアなオッサンがこういうノリで盛り上がる時点で、すでにフィアットの術中にハマっているということである。

見た目はジョークでもハードウエアは生真面目

見た目にはジョークにしか見えない500Xだが、実物のハードウエアは悪ふざけどころか、正反対にとても生真面目なところが、500Xのどうにも憎めない美点である。
500Xと似たような例に「MINIクロスオーバー」があるが、MINIクロスオーバーはもともと小作りのMINIの部品やコンポーネントを、Cセグメントのサイズに使い回した強引な感じが少しある。室内空間は広いのに、運転席の調度品がやけにコンパクトに凝縮されていたり……といった点だ。しかし、新世代のCセグメントMINIといえる「MINIクラブマン」にはそういうミスマッチ感はないので、今の目で見ると、MINIクロスオーバーの設計には過渡的な側面がうかがえる。

その点、ジープとの共同作業でゼロから開発された500Xに、そうしたチグハグ感はまるでない。即座に指摘できる500との共通部分は、ハザードボタンその他の細かいスイッチ類くらい。シートサイズもたっぷりで、あらゆる操作系も理想的な距離とサイズである。

感心するのは、500とは打って変わって豊富で便利になった収納で、手回り品を放り込んでおくポケットには事欠かない。ドアアームレストの取っ手が日本車風のポケット形状になっているのも、重箱のスミのような話であるが、普段使いには重宝する。さらに、サイドシルやリアホイールハウスをきっちりカバーするように設計されたドアにも、SUVとしての良心がうかがえる。

今回の試乗車は4WDの「クロスプラス」で全高は1625mm。500Xの実際の室内空間はアップライトで楽な姿勢で座れるうえに、ほどよく開放的なヘッドルームがある。後席の居心地もよく、足もとも身長180cm級の男性でも不足ない。500Xのパッケージングは日本的な価値観では「立体駐車場にギリギリで入らない」と、なんともビミョーに惜しい。しかし、それもまた、この種のクルマの機能を追求して真面目にパッケージングした結果ということだろう。

500Xの印象的なところ

オンデマンド型4WD機構を備える「500Xクロスプラス」の変速機は、イタリアの同じラインで生産される「ジープ・レネゲード トレイルホーク」と共通のトルコン式9段AT。ただし、エンジンについては、トレイルホークがFFモデルとは異なる2.4リッター自然吸気を搭載するのに対して、500XはFFと共通の(過給圧を上げたハイパワー型)1.4リッターとなる。

フィアットクライスラー系で9段ATを初めて採用したのは「チェロキー」だった。上陸当時の9段ATは正直いって“宝の持ち腐れ”感があった。基本的に100km/h以下の日本の道路で使うのは8速まで、日本で道路法規を守るかぎり、9速を使う機会はまずない……というのが現実だったのだ。
しかし、今回の試乗の舞台となった関越自動車道をおとなしく走る500Xでは、ときおり9速を使うようになっている。これは変速プログラムが練られたこともあろうが、クルマそのものがチェロキーより軽量コンパクトなので負荷が小さいことが大きいのだろう。

ちなみに100km/hで9速に入ったときのエンジン回転数は1600rpmほどで、エンジンにノッキング一歩手前の少し苦しげなそぶりがあるのは否定できない。実際、わずかでも勾配があったり、少しでもスロットルに力を込めたりすると、100km/h前後の速度域では7速と8速をけなげに往復しながら走るのが基本だ。

500Xで印象的なのは、どこをどう走っても、車体とサスペンションのガッチリ頑強な感触が維持されることである。この種のSUVとしては高めの地上高ともあいまって、舗装路を走っているだけで、「ナメてもらっては困ります」という本格派の片りんを主張してくるのが頼もしい。どこぞのキャッチコピーではないが、「あ、この瞬間がジープだね」とつぶやいてしまいそうになる。

この瞬間がフィアットだね

225幅の低偏平18インチという、なかなか物騒なタイヤによる操縦性は、ガチッとロールを抑制した俊敏なスポーツテイストでちょっとしたホットハッチの雰囲気すらただよう。資料によればフルグリップ時は基本的にFFで走るというが、今回はスタッドレスタイヤ装着ということもあってか、かなりの頻度で後輪にトラクションがかかっていることが感じ取れる。

また、コンソールのダイヤルで「スポーツ」や「トラクション」を選ぶと、さらに積極的な4WD配分をする。それでもテールから回り込む特性にまではならないものの、4輪でグイグイ前に出ていく4WD感は濃厚。あえて4WDのクロスプラスを選ぶ理由は、積雪地用途だけでなく、高速や山坂道に頻繁に通う飛ばし屋にもそれなりにありそうである。

基本骨格やパワートレインを共用するレネゲード トレイルホークと500Xクロスプラス、それぞれのキャラクターを決定づける要素には、デザインやシャシーの仕立て以外にも、エンジンが果たしている役割も大きい。

この1.4リッターターボも、低速からいきなりパンチ力のある特性は最新鋭ダウンサイジングエンジンの例に漏れない。ただし、トップエンドで詰まる中低速最優先型がはびこる同種エンジンのなかで、このフィアット・マルチエアは6000rpmほどのハイエンドまで、突き抜けるように軽快に吹け上がる。お世辞でなく、こういうエンジンはほかにない。
これが“ラテンの血(笑)”というやつか。それはともかく、デザインがどうだろうと、基本骨格がなんだろうと、このエンジンを積んでいるだけで「あ、この瞬間がフィアットだね」と思えるのは誇張ではない。

クルマとしてとことん真面目につくられて、ハードウエアにもきっちりとフィアットのブランド性をトッピングしてみせる500Xクロスプラス。シャレやジョークというのは真面目にやるほど、高度なユーモアになる。

(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)

テスト車のデータ

フィアット500Xクロスプラス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4270×1795×1625mm
ホイールベース:2570mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:170ps(125kW)/5500rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Q/(後)225/45R18 95Q(ピレリ・アイスアシンメトリコ)
燃費:13.1km/リッター(JC08モード)
価格:334万8000円/テスト車=361万3032円
オプション装備:ETC車載器(1万3392円)/ナビゲーションシステム(5万9400円)/ボディーカラー:パールレッド(16万2000円)/フロアマット(3万240円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:6933km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:627.2km
使用燃料:73.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/10.9km/リッター(車載燃費計計測値)
 

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