ルノー・トゥインゴGT(RR/5MT)
小型スポーツカーの秀作
2017.11.11
試乗記
ごくマジメな実用ハッチバックも、ルノースポールの手にかかればご覧のとおり、小粋な4シータースポーツに早変わりする。「ルノー・トゥインゴGT」は、著しい高性能化でかえって行き場を失いつつあるスポーツカーに対するアンチテーゼであり、小型スポーツカーの秀作だ。箱根で試乗した。
自ら操りたい人へ
トゥインゴGTは現代版ホットハッチだ。かつてルノースポールは「ルノー5 ターボ」や「クリオ ルノースポールV6」などに代表されるスポーツモデルで一世を風靡(ふうび)した。あの時代の熱い血潮を再現させるのは今の時代では難しい。排ガスや安全性、経済性などクリアしなければならない課題もある。それでも額面上のパワーで300psだ500psだとすごい数字を実現している高性能車も登場している。手ごわい相手と対峙(たいじ)し、それを屈服させて、征服感を満たすことに面白みを感じるのも事実だが、それを一般路上で実感するのには無理もある。適当なボディーサイズとパワーが与えられたコントロール性のいいクルマこそ、現実的な乗って面白いクルマといえる。
本来面白かるべきその操縦する楽しみを、電子制御でなだめられ、何事もなく乗せられたって面白いかどうかは疑問だ。それでもただ速ければいいという車を求めるヒトには、そちらをおススメする。
トゥインゴGTはもっと繊細な操縦感覚を持っていて、車に乗せられて満足するのではなく、自分で能力を引き出すことに興味を示す人に向く。ルノースポールは泣かせどころをうまく押さえたイイ感覚を持っている。それが高価な買い物ではなく、既成のコンポを流用して比較的安価(224万円)に提供される点も歓迎される。
「トゥインゴGT」は去る10月、まずは200台の限定車として発売された。200台以上の申し込みがあり、抽選になったそうだ。2018年の年明け後にカタログモデルとして、あらためて発売される予定。
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試乗車は200台の限定車。ボンネットからルーフ後端へと続くデカールはコンセプトカー「トゥインラン」(2013年)にならったもので、NACAダクトをイメージしているという。
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デュアルエキゾーストパイプを得て、後ろ姿が勇ましくなった。200台限定モデルのボディーカラーは「オランジュ ブレイズM(メタリック)」のみの設定。
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ハッチゲートの左下に貼られたルノースポールのバッジ。“ホットハッチ化”は同社が担当した。
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5段MTで生き生きと
900ccターボエンジンが生み出す109psで車両重量1010kgを運ぶとなれば、特に目覚ましい動力性能は期待できないが、5段マニュアルは自分でギアを選んで走れるから、ストレスを感じる部分は少ない。5段階のレシオは下4段をクロスさせたもので、同じリズムで500rpm上げ下げして使うだけでも面白い。5段目は燃費を考えてレシオを高くしてあるが、極端なOD(オーバードライブ)レシオではなく4速とそれほど離れていないから、軽い上り坂でも5速が使えるほどの速度域ならばそのまま走れる。そんなとき、ターボ過給は負荷に応じてパワーを補ってくれる。
小さな不満としてはタコメーターの備えがなく、どこまで回していいか判断がつきにくい。いとこ車のスマートにはダッシュボードにニョキッと生えた別体の小さなメーターが追加されている。トゥインゴも後付けでもいいから何とかしてほしいところだが、GTを名乗ることだし、やはり純正仕様として最初から組み入れるべきだろう。
ただエンジン音を聞いても大体の回転数は判断できるから、見ないでも感覚だけで走れるし、そのまま回転を上げていくとリミッターが作動するから、エンジンを壊すようなこともない。とはいえ、それでは初心者感覚にすぎる。やはりシフトダウンの際には回転数を頭に入れておきたい。
室内にも差し色としてオレンジが用いられている。レザーステアリングや前席シートヒーターが標準で備わる。
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メーターは速度計のみ。220km/hまで刻まれている。
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限定車のトランスミッションは5段MTのみ。追って発売されるカタログモデルでは6段EDC(エフィシェント・デュアル・クラッチ)仕様も設定される予定。
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ラゲッジルームのフロアボードを外すと、109psを生み出す0.9リッター直3ターボエンジンが現れる。
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便利で魅力的なスポーツカー
一方、真っすぐ走っているときの直進性などにもRRの特性は影響する。OS特性はわずかな路面の荒れや横風などに対しても敏感で、チョロチョロと進路を乱されがちだ。トゥインゴGTにもそんな症状が皆無ではない。しかし現代のチューンではタイヤの容量も味方し、何より長いホイールベースにより大きく乱されることはないが、ハンドルを持つ手には微少の方向的反力も感じられる。それらは路面感覚ともあいまってスポーツカーにとって、自分の置かれた状況を知るうえでの情報となり、好感をもって受け入れられる特性でもある。
そんなトゥインゴGTながら、エンジンが前にないからフロアの張り出しが少ないし、センターコンソールもそれほど大きくないから、小さな車のわりにはクラッチを踏む左足周辺のスペースは十分だ。けれども左ハンドル車ならもっと広いのかなー……という見方も残る。アシ先はペダルの下に潜らせておいて待機することになる。その際のニーグリップ代わりになる樹脂ボックスの支持剛性は低い。と思ったら、その箱は単にカップホルダーに差し込まれているだけと判明。この辺は自分で加工する楽しみとなるだろう。リアのガラスハッチを開ければ、エンジンルーム上のフロアボードにはコンビニの買い物袋以上のものが置けて、日常生活における実用性もクリアしている。
オープン2シーターはスポーツカーとして確かに魅力的ではあるが、このホットハッチ4シーターもまた便利で魅力的なスポーツカーだ。
(文=笹目二朗/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
今回の試乗距離は約180km。燃費は12.7km/リッター(満タン法)となった。
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小さな車のわりにはクラッチを踏む左足周辺のスペースは十分。しかしフットレストはなく、左足はクラッチペダルの下に潜らせておいて待機することになる。
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ラゲッジルームには十分なスペースが用意されている。リアシートには50:50の分割可倒機構が付く。
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クロームのデュアルエキゾーストパイプが付くほか、それに合わせて「トゥインゴGT」専用のリアディフューザーも装着されている。
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テスト車のデータ
ルノー・トゥインゴGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3630×1660×1545mm
ホイールベース:2490mm
車重:1010kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:109ps(80kW)/5750rpm
最大トルク:170Nm(17.3kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)185/45R17 78H/(後)205/40R17 80H(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:--km/リッター
価格:224万円/テスト車=224万円
オプション装備:なし
テスト開始時の走行距離:1674km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:184.6km
使用燃料:14.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.7km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)
ルノー・トゥインゴGT
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