ジェームズ・ボンドとスウォッチによろめいて

その後カシオを末永く愛用したかというと、そうではない。同年、銀座の映画館で見た『007 ユア・アイズ・オンリー』では、ロジャー・ローアが演じるジェームズ・ボンドがセイコー製スペシャルモデルを装着していた。それにシビれたボクは、そのデザインに極めて近いセイコーを新たに買ってもらったのである。

大学時代は日本進出直後でまだ珍しかった「スウォッチ」に飛びついてしまった。恐らく学内で一番早かったと思う。当時のスウォッチは、まだ品質が不安定だったようで、気がつけば針が外れてベゼルの中を泳いでいたこともあった。それでもそのファッショナブルさに引かれて、次々と買っては使い続けた。

そんなある日のこと、しまっておいたカシオをふと取り出してみた。驚くべきことにボクが放置していた間も、黙々と動き続けていた。処分するのも忍びなく困っていたら、母が「引き取る」という。自分のお古を母親が使っているというのは仲良し親子のようで、息子として格好悪く思えた。しかし、母はまったく気にしないどころか、「便利」といってそのカシオをずっと身に着けていた。

かくして、リアルタイムでカシオ製デジタルウオッチの黎明(れいめい)期を体験してしまったボクである。昨今いくら「80年代レトロ」などと評されても、「何を今更」という感じでトレンドに乗れずに今日に至ってしまった。

2017年12月、クリスマス・シーズンのシエナにて。カシオが陳列されたウィンドウに、プレゼントを探す人々が足を止める。
2017年12月、クリスマス・シーズンのシエナにて。カシオが陳列されたウィンドウに、プレゼントを探す人々が足を止める。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。、(ともに二玄社)、、(ともに光人社)、(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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