機能とコストを追求したからこそ

ところ変わって2018年3月、ドイツのヒストリックカー見本市「テヒノクラシカ・エッセン」に赴いたときである。

あるドイツ系メーカーの広報担当者も、やはりカシオを愛用していた。彼のものは金色外装の傷みがかなり激しいが、不思議なことに、それが風合いに転化していた。例えればリモワのアルミ製スーツケースのような感じだ。カシオのスタンダードウオッチは、日本ブランド初の「ヤレていたほうがかっこいい」プロダクトとみた。

その会場内で、目立っていたクルマといえば、“dans son jus”(困った状態:フランス語)と呼ばれる「未再生車」だ。「レストアするのもいいが、ホコリだらけのまま、傷だらけのまま、車がたどってきたストーリーに思いをはせることもできる」と、あるヒストリックカー専門中古車商が指南してくれた。

代表例は、フォルクスワーゲン(VW)の「ビートル」や、姉妹車である「T2バン/キャンパー」だ。むしろ使い込んだほうが味が出る。事実、VW自身もそうした空冷系モデルの、かなりやつれた個体にサーフボードを載せたりして広報写真に登場させている。

歴史に関心のある人ならご存じのとおり、VWは従来富裕層の物だった自動車を広く人々に解放し、同時に高い操作性、メンテナンス性そして耐久性を実現した。

カシオは1974年の時計市場進出にあたり、業界に先駆けてケースとバンドの素材にプラスチックを採用している。それにより生産効率化とコスト低減を実現。同時に、従来はなかったラフに使える腕時計を人々にもたらした。加えて完全自動カレンダーをはじめとする利便性を追求している。

VWしかり、カシオしかり。「使い古し」でもサマになるのは、流行に左右されず徹底的に機能を追求したプロダクトだからに違いない。

2018年3月に開催された古典車ショー「テヒノクラシカ・エッセン」で。1951年「フォルクスワーゲン・ビートル」は3万9000ユーロ(約510万円)の値札が付いていた。
2018年3月に開催された古典車ショー「テヒノクラシカ・エッセン」で。1951年「フォルクスワーゲン・ビートル」は3万9000ユーロ(約510万円)の値札が付いていた。拡大
テヒノクラシカ期間中に開催された英国コイズ社のオークションで。新車当時米国に輸出され、カリフォルニアの太陽を存分に浴びた1958年「フォルクスワーゲン・タイプ2パネルバン」。
テヒノクラシカ期間中に開催された英国コイズ社のオークションで。新車当時米国に輸出され、カリフォルニアの太陽を存分に浴びた1958年「フォルクスワーゲン・タイプ2パネルバン」。拡大
愛好会のパビリオンは、毎年工夫を凝らした装飾が見ものだ。こちらはニーダーザクセン州の一都市を拠点とする「VWベテランクラブ」のスタンド。ここにも未再生状態の1949年「フォルクスワーゲン・タイプ1カブリオレ」が。
愛好会のパビリオンは、毎年工夫を凝らした装飾が見ものだ。こちらはニーダーザクセン州の一都市を拠点とする「VWベテランクラブ」のスタンド。ここにも未再生状態の1949年「フォルクスワーゲン・タイプ1カブリオレ」が。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。、(ともに二玄社)、、(ともに光人社)、(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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