シンプルにして高性能

ポルシェのブランド名が初めて冠されたモデル――すなわち、シャシーナンバーが001の「タイプ356」が誕生して、今年でちょうど70年。そうした歴史の中でも最も著名な作品はもちろん、この356の後継として初代モデルが1964年に登場し、2011年デビューの現行型で7代目となる「911」シリーズだ。

“猫背型”のボディー後端の低い位置に水平対向エンジンを搭載するという特徴は、初代誕生時から一貫したもの。356のユーザーを受け入れるべく、廉価版として企画され4気筒ユニットを搭載した当初の「912」を除けば、その心臓が6気筒に限られることも、このシリーズならではの重要な記号となっている。

クーペに「カブリオレ」、そして「タルガ」と、3種類のボディーを用意することにはじまり、世界のスポーツカーの中にあっても同じシリーズ内に例外的なまでに多彩なバリエーションをラインナップするのは、長い時間をユーザーとともに歩んできた、このモデルならではの“勲章”といっていい。

というわけで、現行991型のライフもそろそろ後半という今のタイミングになって追加されたのが、911カレラTという名を与えられた新バージョンである。

「ボディータイプはクーペで、駆動方式はRRのみ」というこのモデルの狙いどころは、「911の純粋主義を象徴するニューモデル」という点にある。エンジンやボディーの骨格は「911カレラ」用のアイテムをそのままに使い、リアシートは廃止、リアとリアサイドには軽量ガラスを採用、さらに吸音材の削減などによって軽量化をさらに徹底した。

一方、カレラ比で20mm、通常の電子制御式可変減衰力ダンパー「PASM」装着モデル比でも10mmのローダウンとなる「PASMスポーツシャシー」や、同じくカレラ比で1インチ大きく1サイズ幅広のシューズを標準採用するなど“走りへのこだわり”はカレラ以上だ。ちなみに、カレラでは選択不可能なリアのアクスルステアリングをオプション装着できるのも、このグレードならではの特権。そんなカレラTの車両重量は、「同等装備のカレラに対して20kgマイナス」と報告されている。

カレラとは違う軽快感

そんな911カレラTに乗ったのは、ニュルブルクリンク周辺の一般道。実はこのあたりは緩急さまざまなワインディングロードが点在すると共に、交通量が少ないアウトバーンの速度無制限区間もほど近いという“テストドライブの理想郷”でもある。

残念ながら、日本には導入されないというMT仕様でまずはスタート。と、クラッチミートの瞬間、あまりの軽快感に驚かされた。蹴り出しの軽やかさは、明らかにカレラ以上。それは端的に言って、わずか20kgの違いとは思えない。もう一度資料に目を通すと、トランスミッションのギア比は同一ながら、デフギア比が4%ほどローギアード化されていることに気がついた。

前述のように吸音材の削減や軽量ガラスの採用でエンジンサウンドのボリュームが増していることも、加速感を高める一助になっているのだろう。不快感を伴わないそんなサウンドの上乗せは、むしろ歓迎できることがらだ。

短縮されたシフトレバーは、操作力の増大を招くことなく、手首の動きで操作できる感覚をアップさせている。シューズの大径化&ワイド化によるネガを意識させられることなく、しなやかかつ軽やかに路面に追従するフットワークが生み出す、機敏で正確なハンドリングの感覚は、街乗りシーンからオーバー200km/hのアウトバーンまで、「ゴキゲンそのもの」と言っていい。

一方、そんなMT仕様からポルシェがPDKと呼ぶDCT仕様へと乗り換えると、エンジンに火を入れた瞬間に「こちらの方が静かだ」と実感することになる。実はこちらのテスト車は、オプションのリアシートを装着していた。その副産物として、リアのエンジンルームからの透過音をボリュームダウンさせることになっていたようだ。

ただし、そうした部分も含め、こちらは「普通のカレラとあまり変わらない」という印象が強かった。MT仕様のようなデフギア比の変更も、PDK仕様では行われていない。かくして、「911ならではのうま味を凝縮」という雰囲気は、MT仕様の方が濃かった。今からでもぜひ、その日本導入を検討してもらいたいものだ。

(文=河村康彦/写真=ポルシェ/編集=関 顕也)

【スペック】
 全長×全幅×全高=4527×1808×1285mm/ホイールベース=2450mm/車重=1425kg/駆動方式=RR/エンジン=3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ(370ps/6500rpm、450Nm/1700-5000rpm)/トランスミッション=7段MT/燃費=11.8km/リッター/価格=1432万円
 

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