2018年5月に4度目の商品改良を受けたマツダのコンパクトクロスオーバーSUV「CX-3」は、走行性能のみならず、“気品ある美しさと先鋭さ”をテーマにデザイン面でも多く手が加えられている。改良モデルのカラー&トリムデザインを担当した2人の女性デザイナーに話を聞いた。

意識したのは“引き算の美学”

現在、マツダのデザイン部門は先行デザインを開発するアドバンスデザインスタジオと、量産デザインを開発するプロダクションデザインスタジオの大きく2つに分かれているという。そして、プロダクションデザインスタジオの中に、エクステリアデザイン、インテリアデザイン、カラー&トリムデザインの3つのグループがある。

今回の商品改良では、カラー&トリムデザイングループによって、インストゥルメントパネルやシート、ドアトリムの素材、カラーコーディネーションが見直されたことで、より質感が高められている。カタログモデルのレザー仕様「Lパッケージ」を担当したのが寺島佑紀さん、ナッパレザーシートを採用した特別仕様車「Exclusive Mods(エクスクルーシブ モッズ)」を担当したのが李 欣瞳さんだ。

――ではまず、寺島さんが担当したLパッケージはどういった改良がされたのですか?

寺島さん(以下敬称略) 従来モデルの内装デザインは、白黒赤の3色のレザーを配置することで、若さをアピールしていました。新型では日本の“引き算の美学”を取り入れて、素材と色をかためて同じ場所に配置することで、整理された空間をつくっていこうと考えました。

――たしかに、色数が整理されて落ち着いた雰囲気になりましたね。

寺島 キーになったのは、グレーのスエード調素材です。人を包み込むように、インパネのミドル部分にインサートとして配しています。シートは、従来型ではシートバックと座面の一部に黒を用いていましたが、新型は白のフルレザーにしました。それからCX-3らしいアクセントを入れるために、シートにはインパネと同調するグレーのパイピングを入れているのですが、通常は飛び出しているパイピングを奥に入れて、アクセントラインのようにしています。またシートバックのセンターでは、ぷりっとしたかわいらしい表情がでるように、縫製(ほうせい)でプリーツを入れました。

――サイドブレーキレバーがなくなって、アームレストが付いたのも効果的ですね。

こだわりのインテリアを実現するための工夫

――李さんはどういう意図で特別仕様車をデザインされたのですか?

李さん(以下敬称略) 従来型にも「ノーブルブラウン」の特別仕様車がありましたが、こちらも引き算の美学で、色を3色ではなく2色に絞ることでよりコントラストを上げて、ぱきっとしたシャープな印象を作りました。それから、マツダが持っている中でも「CX-8」などに使われている最上級のナッパレザーをぜいたくに使っています。

――ナッパレザーといえば、ドイツプレミアムメーカーなども使っている高級品ですね。先ほど少し座らせてもらいましたけど、たしかに肌触りも良かったです。

李 このレザーは、パーフォレーションという小さな穴をたくさんあけた加工がされているのですが、試作段階では穴にひっぱられて、ステッチの糸がゆがんでしまう現象が起きてしまったんです。解決策として、革を加工する際に、わざわざ縫製のために帯状の穴のあいていない箇所をつくったんです。

――随分と手間がかかっていますね。コスト的には大丈夫だったんでしょうか。

李 実はとっても原価のかかるものです(笑)。ただ、冨山主査(CX-3担当主査の冨山道雄さん)には「トップ・オブ・ザCX-3を作るために、今回はお金の心配はしなくていいからフルスイングしてくれ」と言われて、サポートしてもらえたので実現できました。

――この特別仕様車は、エアコンの吹き出し口にも白いアクセントがあって、きれいですよね。

李 こちらも白で統一してシャープな印象を与えたいという思いがありました。ただし、白い素材を高い位置に使うとガラスなどに映り込んでしまいます。そこで、明度は下げつつ、まわりの素材や色を変更することで、組み合わせの妙で白に見せることはできないかというのをエンジニアと一緒になって探ってきました。結果、実際は白ではなくグレーなんですけど、人の目では白だと認識するものが再現でき、映り込みなどの物性要件もクリアすることができました。

――なるほど。

マツダを選んだ理由は“デザイン”

――ところでお2人は“若者のクルマ離れ”といわれる時代になぜ自動車のデザイナーになろうと思ったんですか?

寺島&李 あははははは(笑)。

寺島 実はわたしたち同期なんです。

――それって、今回同じモデルに携わるようになったのは偶然ですか? 女性デザイナーが増えているとか?

李 偶然です。いま入社して4年目なんですけど、入社した頃うちのグループでは女性の数は3分の1くらいでした。いまは女性の割合が半分くらいに増えています。私はもともと工業デザインの出身で、造形やカタチに興味があって以前は東京のデザイン事務所で家具や家電をデザインしていました。そうした中で大学のときに少し学んだこともあって、CMFデザイン(※)に興味があったんです。それをもっと専門的にやりたいと思うと、実はクルマ業界が一番確立しています。アジアではまだそこまで認知されていませんが、北米やヨーロッパではCMFデザインに特化した学科や科目があって、CMF=クルマってイメージがあるくらいです。

※CMFデザイン
COLOR(色)、MATERIAL(素材)、FINISHING(加工)の3つの要素の頭文字をとったもの。プロダクトの表面素材や色、質感、手触りなどを含めてトータルでデザインを行う。欧米ではこのデザイン分野がすでに確立されている。

寺島 たしかにまだ日本では、CMF専攻という人はほとんどいないですね。私はテキスタイルの専攻で、布のデザインを学んでいたんですけど、布だけじゃなくそれが最終的にどんな製品になるのか、最初から最後まで一貫して見ることができる仕事につきたいなと思っていました。布って平面ですけど、カタチあるものに張れば立体にもなる。それも面白いなと思っているときに、あるセミナーでこういう仕事があると知ったんです。自動車って特別なプロダクトじゃないですか。家の中にある家電とは違って、街を走ると風景の一部になる。そういうものって他にはないなって。そしてクルマメーカーの中から、カッコいいデザインがよくてマツダを選んだんです。

――たしかに“魂動デザイン”以来、マツダのデザインにはカッコいいものが多い印象があります。

李 私自身はクルマが好きというよりはデザインが好きで。デザインってとても繊細なもので、一筆一筆でカタチが定義されていきます。マツダ車の骨格をみたときに、バランスがきれいだなと感じて、私はカラーデザイナーとして、クルマだったらマツダじゃなきゃと思っていたんです。で、もし落ちたらクルマ業界はもういいやって(笑)。

――へえ、マツダのデザインが好きな点はおふたりに共通していると。それはおもしろい。

カッコいい女性にカッコよく乗ってほしい

――しかし、自動車のインテリアってキレイやカッコいいだけじゃだめで、耐候性、耐熱性、衝突安全性、それこそフロントガラスへの映り込みであったり、いろんなものを求められるじゃないですか。「本当はもっとこうしたかったんだけど」ということはなかったですか?

寺島 あります、あります(笑)。今回、グレーのスエード素材を使っていますけど、耐候性の問題もありますし、明度にはすごく悩みました。同じ素材、色でも使う部位によって見え方は全然違いますし、求められるものも違うので、そこは自動車ならではの難しさであり、面白さでもあると思います。

李 学生の頃だと、あれもやりたい、これもやりたいとなりますけど、やはり世の中はルールでできていますし、要件とかコストとか制約があるなかで、いかにいいものができるか、満足できるものができるかってことを心がけるようにしています。それができて初めてプロっていえるのかなと思いますね。

――なるほど、シビアですね、ボクなんかいまだに仕事でもあれが欲しいこれが欲しいってなっちゃうけど(笑)。最後にそれぞれどんな人に新しいCX-3に乗ってほしいか、どんなイメージでデザインしたのか教えてください。

寺島 これで担当したモデル数は2.5台くらいになります。今回は決して派手な改良ではありませんが、要素を整理したことで日常の中での居心地のよさを感じてもらえたり、ここはいいなという部分を発見してもらえたりしたらうれしいですね。もし頭に思い描いていたようなカッコいい女性が乗る姿を街で見かけることができれば、きっと最高にうれしい瞬間ですね。

李 私はこれまで長期のプロジェクトに参加していて、いわゆる“まだ言えないモデル”を担当していたので、このCX-3が初めて世に出るモデルなんです。どんなものが好まれるのか、お客さまの立場になって考えることが好きですね。東京やニューヨークや上海などの都会で、CX-3をカッコよく使いこなす女性を妄想しながらデザインしていました。

若き女性デザイナーの登用は、いまのマツダデザインの好調さをあらわす事象といえるかもしれない。冨山主査によると、日本のCX-3ユーザーの約4割が女性という。女性ならではの感性を生かしたCMFデザインによって、さらにCX-3の支持が高まりそうな予感だ。

(インタビューとまとめ=藤野太一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
 

すべての画像・写真を見る