むずかしい立場で奮闘

2015年に国内発売になった現行マツダ・ロードスター(ND型)に2回目の小改良が施された。1回目の小改良は2017年で、リアサスペンションや電動パワーステアリングの制御を変えて走りの質感向上を図ったり、リアコンソールボックスの内部に遮音マットを敷いて静粛性を高めたりした。あわせて「レッドトップ」なる赤いほろを持つ特別仕様車を期間限定で販売した。それに続く今回は、エンジン関係に手が入った。ロードスターファンからすれば、大事件であるに違いない。

マツダ・ロードスターは1989年に初代が発売され、世界に衝撃を与えた。「MGB」の生産終了が1980年だから、待望久しい量産ライトウェイトスポーツカーの復活だった。それもヒロシマの自動車メーカーから出てきたことに世界史的な意味がある、と筆者は思う。

ロードスターは、以来29年間も代替わりしながら続いており、いまや4代目を数えていることは読者諸兄のご存じのとおりである。現行ND型は2015年に国内で発売され、翌2016年に6万0554台、2017年には5万7001台が生産された。歴代の生産台数の推移を見てみると、初代NA型はフルイヤーの1990年に9万5640台、2代目NB型は1998年に5万8682台、3代目NC型は2006年に4万8389台が生産された。初代がいかに爆発的人気を集めたか、ということがこの数字からも明らかだろう。

2000年には累計生産台数が53万1890台に達し、かのギネスブックに「2人乗り小型オープンスポーツカー」の世界記録に認定された。記録更新はいまも続いているけれど、100万台の達成は2016年のことで、つまり次の50万台を積み上げるのに最初の50万台のおよそ1.5倍の歳月を要した。21世紀に突入してスローダウンしているのだ。

ほとんど実用の役に立たない2座ロードスターなんてものが量産メーカーのそろばんに合うほど売れるわけがない、ということも冷徹な事実なのである。今年、創立70周年をめでたく迎えたポルシェがその大半をスポーツカー専業メーカーとしてやってこられたのは、「356」とその後継である「911」に、狭いながらもリアシートがあったからだ。

というようにむずかしい存在のロードスターにあって、現行ND型は発売の翌年の年産が初代以来久々に6万台を突破し、さらにその翌年も、リトラクタブルハードトップのRFを追加することで、2年連続での年産5万台超えに成功している。

文化の創造を目指して

4代目ND型成功の要因は、ひとつには初代の精神に戻り、徹底した軽量化によって車重1tを切るなどして、「人馬一体」に努めたこと、それまでのブリティッシュテイストからイタリアンモダンへとテイストを変えたデザインなどにある、ということになるだろう。しかも、4代目の開発陣は新型を出しっぱなしにするのではなくて、育成していく、という方針をはっきりと打ち出した。

「育成」というと、すぐに浮かぶのは近年の広島カープの強さだけれど、それはともかくとして、さる2018年8月7日にマツダR&Dセンター横浜で開かれた新型ロードスターの公道試乗会で、チーフデザイナー兼主査の中山 雅さんはこんな内容のことを語った。

モノづくりを縦軸に、コトづくりを横軸にとってグラフ化し、そのふたつの軸で常にお客さまの想定を超えていく。想定を超えるから感動が生まれる。それを続けていくことで文化になる。ロードスターの開発スタッフは常に問いかける。「それは感動と呼べるか、文化と呼べるか」と。そして、文化をつくる、という高い志をもってロードスターを育成していく、というのである。

「朝から暑苦しい話ですいません」と恐縮しつつ、中山主査はさらりとこの暑苦しい話を紹介したのだった。たしかに「文化」といわれると少々身構えてしまうものがあるけれど、試乗会の冒頭で上映されたショートフィルムにいう、「みんなをハッピーにするクルマをつくる」というスピリットには大いなる共感をおぼえた。

で、今回の主な小改良は、人馬一体感の追求にあった。強調されたのは「感」。爽快感であり、走り感で、とりわけRFに搭載されている2リッターエンジンの刷新にターゲットが絞られた。より自由自在に操れる爽快感を得るべく、最高許容回転を6800から7500rpmへと700rpmもひき上げた。その結果、158ps/6000rpm、200Nm/4600rpmだった最高出力と最大トルクはそれぞれ184ps/7000rpm、205Nm/4000rpmに書き換えられた。最高出力の発生回転数が1000rpmも上がって、26psも増えた一方、最大トルクは5Nm強化されて、発生回転数は逆に600rpmも下がった。これは小改良レベルの改良ではない。

価格に見合ったリファイン

このほか、カラーコーディネーションの深化ということで、「ブラウン」と呼ばれるこげ茶色のほろと、「スポーツタン」と呼ばれる明るい茶系の内装色が追加された。「キャラメルトップ」と名づけられた特別仕様車で実現したもので、2018年の12月24日まで注文を受け付ける。6MT車で309万4200円と「Sレザーパッケージ」というグレードと同額だけれど、そのほんとうの価値は注文受け付けが終わったクリスマス以降に明らかになるのかもしれない。なお、RFにはスポーツタンの内装のみが新たに設定された。ブラウンのほろのつけようがないのだから致し方ない。

安全面では、前後方向の自動ブレーキサポートとオートマチック車のAT誤発進抑制制御が全グレード標準装備になっている。ロードスターとしては初めてステアリングにテレスコピック機能が与えられてもいる。従来の上下42mmのチルト機能に加えて、わずか30mmとはいえステアリングホイールが前後に動くようになったことで、より最適なドライビングポジションが得られるようになった。これはカスタマーからの要望に応えたものだそうで、実現にあたってアルミ製アッパーコラムの採用や設計の工夫で、重量増を最小限に抑えた、というのが開発陣のジマンだ。

以上の説明のあと、試乗に移った。最初に乗ったのはロードスターRFのRSという一番高いグレードで、車両価格は386万6400円。その前に旧型の同グレードに乗る機会が設けられていて、そちらは380万1600円だった。およそ6万円ちょっとの値上げで、プラス700rpmと26ps、トルクにして5Nmが得られるのだから、極めて良心的な価格設定というべきだろう。テレスコピックもついて、前後自動ブレーキサポート等、安全面での充実も考えれば、タダみたいなものだ。

タコメーターに目をやると、旧型では7000rpmの手前から始まっていたレッドゾーンが7500rpmからに移行している。赤い面積が減り、盤面のデザインがスッキリした。スターターボタンを押すと、バフォンッと一発ほえてからアイドリングを開始するところは同じだ。

2つの乗り味がひとつに

かちりと決まる6段MTを操って走りだすと、全体に静かになっている。回転も滑らかで、そのあとほろ屋根のロードスターに乗って気づいたのだけれど、全体的に1.5リッターのフィーリングによく似ている。統一感という意味では、ロードスターとRFで、1.5と2.0、排気量の違い、エンジンの違いによる別物感がなくなった。ここにいたって、NDの開発陣が考えるモダンなスポーツカー像というものがよりクッキリとした。

初期の2リッターは排気音が野太くて、イギリス車風だった。それがマフラーの改良もあって、静かで繊細なものに変わった。実は筆者の好みからいうと、旧型のほうが好きだったのだけれど、筆者の好みをえんえん続けられても読者諸兄はせんないところなので、昨年、中山主査からうかがったお話を紹介したい。

中山主査は初代NA型をマツダに入社早々に購入し、いまもその個体を持ち続けている。それ以前、ホンダの「CR-X」だったか「シビック」だったかに乗っていて、もしもあのホンダのエンジンが初代NAに載っていたら、どんなにすばらしかっただろうか、と想像をめぐらせた。でもって、いや、初代NAはあのがさつな1.6だったから味があったのだ、自動車というのはトータルなものだから、という結論に至ったという。

結論は結論として、中山主査の好みとしてはホンダVTECがひとつの理想であり、主査が理想とするエンジンの方向性にもっていこうとするのは至極まっとうで、当然の行いだろう。古臭いイギリス車のOHV風味が好きだなんていうのはノスタルジーにとりつかれたおっさんの寝ぼけたたわごとにすぎないことは筆者自身もわかっております。旧型2リッターエンジンのほうが好きだというなら、旧型を買えばいいだけの話でもある。

未来をつくる者は過去ではなく、未来を見ているのである。

ほろ屋根の1.5リッターも「変わった」

2リッター直噴エンジンの改良はピストンやコンロッドにも及んでいて、ようするにこれら主要部品がより軽量化された。ピストンは1個あたり27g軽くなった。より軽くしてより回りやすくすることで、高レスポンスと高回転化を実現した。さらに筒内流動の改良、燃焼時の渦の勢いを強くすることで、トルクアップと高効率化を果たした。部品を軽くすると耐久性が下がり、工作精度が上がってコストアップにもつながるだろうけれど、そこを地道なコンピューター解析と知恵によってクリアした。

1.5リッターエンジンにも2リッターユニットでの技術的成果が取り入れられ、全域でトルク特性の見直しが図られた。カタログ的には最高出力131ps/7000rpm、最大トルク150Nm/4800rpmから、それぞれ132ps/7000rpm、152Nm/4500rpmへと、わずかながら数値がアップした。最大トルクの数値からも明らかなように、低中速でのトルクがアップし、そういえば出足というか、アクセルレスポンスというか、記憶をたどってみるとほろ屋根のロードスターもよくなっているような気がする。2.0のRFから乗り換えても、繰り返しになるけれど、別物感がない。

排気量が501cc少なくて、52psと53Nmも非力だというのに、ドライブフィールがとてもよく似ているのだ。ほろ屋根なので、速度を上げると風切音のレベルが違うということはある。それ以外は車両重量が110kg軽いだけなのに、車重1tクラスのライトウェイトスポーツカーにとっての110kgというのは分母が小さい分、レベルが違うということなのだろう。

筆者の記憶によれば、中山主査はこんなことも言っていた。マツダのブランドアイコンといえども、ビジネス上、赤字は許されない。けれど、収支がトントンであれば、継続が許される。ということは、いち消費者として見た場合、ロードスターはものすごくお買い得ということである。だって、それでもうけようなんて思っていないのだから。

なんの実用の道具にもならない。けれど、みんなをハッピーにしたい。それを使命とする。そんな2座のライトウェイトスポーツカーがニッポンにあることを、いちニッポン人として、私もまた大変誇らしく思う。

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)

テスト車のデータ

マツダ・ロードスターRF RS

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1245mm
ホイールベース:2310mm
車重:1100kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:184ps(135kW)/7000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:15.8km/リッター(WLTCモード)
価格:386万6400円/テスト車=419万0400円
オプション装備:【ブレーキ フロント】ブレンボ製ベンチレーテッドディスク&ブレンボ製対向4ピストンキャリパー:レッド塗装+【ブレーキ リア】キャリパー:レッド塗装+205/45R17 84Wタイヤ&17×7JインチBBS製鍛造アルミホイール:ブラックメタリック塗装(32万4000円)

テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:1567km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

マツダ・ロードスターS

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:990kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:132ps(97kW)/7000rpm
最大トルク:152Nm(15.5kgm)/4500rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:16.8km/リッター(WLTCモード)
価格:258万6600円/テスト車=262万9800円
オプション装備:SRSエアバッグシステム サイド<頭部用/胸部用>(3万2400円)/CDプレーヤー(1万0800円)

テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:1630km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 

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