内なる葛藤の末に

カシオのスタンダードウオッチ、愛称チプカシ(チープ・カシオ)については本連載の第549回で、近年イタリアで人気を博していることとともに考察を記した。

モノは試し。後日東京に赴いたとき、ボクも購入してみることにした。書いていると、読者諸兄からの「ウブロ買うんじゃあるまいし、とっとと買えよ」という声も聞こえてくる。だが購入に至るまでには、自らの中で葛藤があった。

ひとつは東京で働いていた1990年代の経験だ。周囲には機械式時計愛好者が少なからずいて、「リストウオッチ選びは男のたしなみ」「タイムピースにこだわることは、時間を大切にすること」といった議論が頻繁に行われていた。そうした諸先輩方の視点からすれば、カシオのスタンダードウオッチは、冗談でしかないだろう。

それに腕時計の世界には、クルマのそれと同じくらい豊かなヒストリーがあることも、仕事を通じて学習した。

だが気がつけば、そうしたウンチクを述べていた方々は、もはや第一線からは引退という年頃となった。

また筆者の主観と断ったうえで記せば、日本やヨーロッパにおいて高級車に乗ったり、高級時計を着用したりする人で、なおかつスタイリッシュな人に遭遇する機会は極めて限られている。似合っているのは、イタリアでも一部の実業家かサッカー選手くらいである。

高齢の人などによく見られる「一流ブランドなのに、ベゼル径が時代おくれ」というのも、以前から気になっていた。“昔がんばって買ったので、なかなか手放せない感”が漂っていて痛い。

それに対して、イタリアで今や若者といえばカシオだ。前述の回でも記したが、今や有名なファッションフェアにおいても、愛用しているインフルエンサーが見られる。

そのようなことから、筆者もようやくカシオ製スタンダードウオッチを試す決意を固めるに至ったのである。

本連載の第549回にも登場したカシオのスタンダードウオッチ愛用者で、アウトドアアクティビティーのツアーガイドを職業とするエドアルド・パウザーニ氏。
本連載の第549回にも登場したカシオのスタンダードウオッチ愛用者で、アウトドアアクティビティーのツアーガイドを職業とするエドアルド・パウザーニ氏。拡大
エドアルド氏のカシオ。
エドアルド氏のカシオ。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。、(ともに二玄社)、、(ともに光人社)、(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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