やりたいことはすべてやった

CX-3は2015年2月に発売されて以来、およそ3年3カ月で4度目の商品改良が行われたことになる。マツダはいま、開発、生産、購買、そしてサプライヤーまでが一体となって、将来を見通した商品、技術の活動プランを立案する「一括企画」を行っており、すべてのモデルで“マイナーチェンジ”という言葉は使わず、「IPM(インテリム・プロダクト・メジャー)」と呼ぶ年次改良を行っている。要はクラスを超えて、いいものはどんどん取り込んでいくフレキシブルさを持ち合わせているのだ。新しくなったCX-3にはマツダ初の技術をはじめ、「CX-5」や「CX-8」といった上級車種譲りの機能も多く盛り込まれた。

――冨山さんは、発売以来ずっとCX-3の主査でいらっしゃいますね。 

そうなんです。2015年2月に発売してから、ずっとこのモデルの主査をしつこく務めてきています(笑)。そして3年間かけてじっくり作り込んできました。

――大幅改良ということで、乗り心地、デザイン、エンジン、安全装備といった4つのポイントを挙げておられましたけど、冨山さんとしてはどういった課題を抱えていたんですか?

まずは乗り心地と操安性の両立です。これは永遠の課題でもあります。これまで3度の改良の中でもやってはいました。でも「良くはなっているけど、でもね」といわれるケースが多い。「マツダのラインナップの中でも少し味が違う」とも言われたり、そこが気になっていました。心の中がずっともやもやしているような。

――そのもやもやがようやく晴れたと。

はい。タイヤを新開発してダンパーの径も変えて、そのためにはアッセンブルする工作機器も違うものが必要なのでそれなりの設備投資までして、これまで踏み込めなかった領域までやりました。そういう意味ではやりきった、という感はありますね。

――ほぉ~。それはすごい。やはりそこに到達するためには、3年という時間が必要だったのですか?

そうですね。初期型からずっとお客さまからの要望などやりたいことをリストアップして、いつのタイミングで改良できるのかを時間軸に並べていきます。これはいまの技術でできるから次にやるとか、お客さまの要望とマツダの技術進化をかけ合わせていくことで、一回の商品改良が成立してきた。そして今回はずっとやりたかったことがど~んとできた。本当はもうちょっと早くやりたかったんですけど(笑)。

走りや実燃費には自信がある

――ディーゼルエンジンの排気量が1.5リッターから1.8リッターになりましたけど、それはどういった理由からですか?

この先の排ガス規制を見越してのものです。NOx(窒素酸化物)の排出量は、排気量の小さいエンジンほど早く立ち上がってきます(=より低負荷の状態からNOxの排出量が増える)。マツダではこのモデルから燃費表示をJC08からWLTCモード(※1)に変更しています。さらにRDE(※2)まで見たときに、NOxの立ち上がりを遅らせて高負荷まで使える状態でモードテストを走りきるためには、このくらいの排気量が必要でした。もちろん1.5リッターでも後処理装置を付ければクリアできると思いますが、マツダとしてはそれは“なし”でやりたかった。

※1:WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)モード
市街地、郊外、高速道路の各走行モードを平均的な使用時間配分で構成した国際的な走行モード。より現実に即した数値になるとみられる。日本では2018年10月以降に販売する新型車へ表記が義務化される予定。

※2:RDE(Real Drive Emission)規制
台上試験の測定値が実走行環境でも達成されるか、路上走行テストを行って計測する欧州の規制。

――しかし、排気量が大きくなれば、重くなるしハンドリングにだって影響が出るんじゃないでしょうか?

きっとそう言われるだろうなって思っていました(笑)。だから、エンジン内部の部品、例えばピストン、コンロッド、クランクシャフトなど回転系のものを徹底的に軽量化して、重量増はほとんどありません。

――それはすごい。ただ日本の自動車税だと排気量が1.5リッターを超えたことで年間5000円アップしてしまいます。個人的には、そもそもいまだに排気量で区分している日本の税制は時代錯誤だし、CO2の排出量などでみるべきだと思いますが、そのあたりはお客さまにどのように説明していくイメージですか?

われわれも、自動車税を排気量で決めているのはおかしいって情報発信していますし、ご協力を得ようと活動もしているのですが、浸透するにはまだ時間がかかりそうです。ただ、私どもは“ライトサイジング”という言葉を使っていますが、排気量だけでなくタービンも大きくなったのでトルクの立ち上がりがスムーズで段付きがなくなっていますし、走りは明らかに良くなっています。また先ほどお話したように重量も重くなっていないですし、実用燃費も上がっています。ですから、お客さまには提供価値は明らかに上がっていることをぜひお伝えできればと思っています。

想像以上に大変な“デザイン変更”

――今回は内外装のデザインもたくさん改良されていますが、その中で冨山さんがこれはぜひやりたかったことは何ですか?

実はずっとやりたかったのが、センターコンソールにアームレストを付けて、カップホルダーを具備するってことでした。

――へえ~。そんなことというと怒られそうですが、アームレストを付けるのはそんなに難しいことだったんですか?

実はアームレストの要望は初期の頃からずっといただいていました。オプションで用品としては設定があったのですが、それを付けるとカップホルダーをふさぐかたちになって、長いペットボトルなどが収納できない。

――では、今回どうやってクリアしたんですか?

サイドブレーキを電動パーキングにしたんです。

――なるほど。サイドブレーキのレバーがなくなったことで、センターコンソールのデザインをやり直すことができたと。でもそれってそんなに難しいことなんですか。それこそ上級車種のものを流用することはできないんでしょうか。

スイッチ類などの造詣自体は可能ですが、まずブレーキの性能を手動式と同等にするのにすごく時間がかかりました。「アクセラ」は電動パーキングですが、サスペンションの形式やブレーキキャリパーの位置なども異なるため流用はできない。開発に時間がかかって、このタイミングになりました。

――単なるデザイン変更ってだけでなく、クルマの開発って本当にいろいろ大変なんですねえ。

そうなんですよ(笑)。走りのことだけじゃなく、用品のアームレストを付けてもカップホルダーと同時に利用できない状態とか、そこもずっと心にひっかかっていて。だから内装に手を入れるんだったら、そこはちゃんとやりたいと。それも前だけじゃなく後席にもアームレストを付けてカップホルダーを付けたいと。

――それで後席にもアームレストが付いたんですね。コンパクトカーのわりに立派なものが付いているなと思っていたんです。

エクステリアにも初めて手を入れました。そもそも完成度の高いクルマですから、プロポーションには一切手を入れていません。ただし、「ソウルレッド」のボディーカラーが「ソウルレッドクリスタル」に進化したことで、パーツをひとつずつ見たときに、どうしても“負けてしまう”部分があった。ですから、質感を上げるためにメッキのパーツであったり、これまでは使えなかったものも採用しています。

成長を続けるSUV市場で存在感を示したい

――いまCX-3が売れているマーケットはどこになるでしょうか?

ヨーロッパ、特にドイツですね。

――日本はどうなんですか?

本当は2番目が日本と言いたいんですけど……アメリカですね。日本は月間目標が2000台なんですけど、ちょっと足りていない状況です。

――日本ではコンパクトカーであっても室内空間の広さなどが重視される傾向にありますから、このスマートなルックスで損をしている部分はあるのかもしれませんね。

デザインだけでなく、ちゃんと大人が4人座れる空間は保持しています。欧州で身長が190cmくらいあるジャーナリストが後席に座っていたので感想を尋ねたら、「これはコンパクトカーだろ。だったら合格だ」と言ってくれたことがあって。

――特に欧州ではそうした基準が明確なのかもしれませんね。現にたしか、CX-3はワールド・カー・オブ・ザ・イヤーのデザイン部門のトップ3に選ばれたくらいですから、評価も高いでしょうし。

日本でもデザインを評価して指名買いされるお客さまが多いですね。それに、日本ではユーザーの約4割が女性です。

――なるほど。ではもっと女性ユーザーを増やしていきたいと?

もちろんそれもありますが、いまSUV市場って拡大の一途でエイジングしていないんです。競合も増えていますが、一方で新しいユーザーも増えている。ぜひ、この大幅改良をアピールして、これまでCX-3を知らなかった人に知っていただきたいですし、物足りないと思われた方にももう一度振り向いていただきたい。

――お話をうかがっていると相当な自信作のようですね。

可能な範囲で先の技術も取り入れていますし、相当追い込みました。いまできる技術の集大成だと思っています。

一般的な自動車の開発プロセスでは、新型が発売されるとマイナーチェンジに向けて開発責任者が後任へバトンタッチするケースが多い。しかし、冨山さんはずっとCX-3に関わり続けて4度もの改良を重ね、そしてこの新型がひとつの集大成だと語っている。これまでCX-3を見過ごしてきた方も、ぜひ一度試乗してみてほしい。

(インタビューとまとめ=藤野太一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)