数時間で消えた違和感

朝早く試乗会場の富士スピードウェイに到着すると、出迎えたのは朝日を受けて輝く「トヨタ・クラウン」の仰々しいフロントマスクの隊列だった。初めて実物を見ると、やはり気おされてしまう。これが、日本を代表する高級車の顔なのだろうか。疑念を抱きつつ午前の試乗を終え、昼食をすませてあらためて対面すると、違和感はすっかり消えていた。わずか数時間で、すっかりなじんだ。駐車場にあった先代モデルを見ると、なんと古めかしいんだろうと感じてしまった。

とはいえ、撮影車として用意されていたピンク・クラウンはさすがに強烈だった。メキシコの建築家ルイス・バラガンの壁の色からインスパイアされたという衝撃的な色は、保守本流とされてきたクラウンのイメージを軽やかに破壊している。わずかな数の試作車しか存在しないにもかかわらず、全国の販売店から展示車を求める声が多く届いているそうだ。ユーザーの関心を呼んでいて、特に女性からの問い合わせが多いという。従来のクラウンがターゲットとしていなかった層に届いているのだ。キャンペーンはひとまず大成功といっていいだろう。

変わったのは外見だけではない。大胆な顔つきや色は、中身の変化の反映なのだ。パワーユニットの変更が、何よりも重要なトピックである。ついに、ハイブリッドがメインになった。これまで一番の売れ筋だった3リッターエンジンに替わるものとして採用されたのが、2.5リッター4気筒エンジンのハイブリッドシステムである。これが全体の売り上げの6割以上を占めると想定されているのだ。

演出いらずの高級感

ハイブリッドのほかに、2.5リッターと3.5リッターのV6エンジンが用意されている。「ロイヤル」シリーズと「アスリート」シリーズが並置されるのは従来通りで、3.5リッターエンジンはアスリート専用となる。1999年に誕生したアスリートはドライバーズカーとしての性格を強めた存在で、“後席で快適に過ごすクルマ”だったクラウンに新たな道を開いた。現在ではロイヤルとアスリートの比率はほぼ5対5になっていて、徐々にアスリートの割合が増えてきている。今回のモデルチェンジでは2つのシリーズの差異を明確にすることをもくろんでいて、アスリートの存在感はさらに増すはずだ。

最初に乗ったのは、2.5リッターV6の「ロイヤルサルーンG」だった。スタートボタンを押してエンジンを始動すると、結構な音量で“起動音”が流れ、ナビ画面の下に設けられたディスプレイに映像が映し出された。高級感の演出ということなのだろう。そんな細工をせずとも、室内には“いいもの感”があふれている。編集部K氏が後席に収まった途端に、「これはイイね!」と声をあげたほどだ。皮革と木目調パネルで構成されたインテリアは、和のテイストとほどよい現代性を併せ持っている。ドアトリムに触れると、適度な柔らかさとしっとりとした感覚が伝わってきた。

走りだすと、さらに印象がよくなった。微速で進んでいると、まるでEV(電気自動車)であるかのような静かさと滑らかさだ。間違えてハイブリッドモデルに乗ってしまったかとカン違いしそうである。クルマの外ではそれなりにエンジン音が聞こえていたので、行き届いた遮音のたまものなのだろう。スピードを上げていっても室内はやはり静かさを保っていて、6段ATがスムーズな加速を手助けする。

しばらく乗っていたら、お尻が熱くなってきた。シートヒーターがONになっていたのだ。解除しようとボタンを探したが、どこにも見当たらない。切り替えは、タッチディスプレイで行うようになっていた。始動時に映像が映し出されたディスプレイは、操作パネルを兼ねている。そこで運転席の設定画面を呼び出すと、ようやくシートヒーターのスイッチが現れた。

幅広い層に向けたハイブリッド

「トヨタマルチオペレーションタッチ」と名付けられたこのパネルで、走行モードの設定も行う。デフォルトでは「NORMAL」だが、「POWER」「ECO」「SNOW」に切り替えることができる。アクセル入力に対する反応やパワーステアリングの応答が変えられるのだ。
「クリアランスソナー」の設定や「リアサンシェード」の操作までこのパネルで行うようになっていて、しばらく触らないとエアコンの設定画面に戻る。ボタンの数が増えてセンターコンソールがごちゃごちゃするのを避けるためのシステムだが、物理的なスイッチに慣れていると最初はまごつくかもしれない。ただ、この種の電子操作システムの中では、直感的に操作できるほうではあると思う。

3.5リッターの「アスリートG」に乗り換えると、2.5リッターとは明らかに違う性格が姿を現した。アイドリング状態でも、エンジンの存在感が伝わってくる。アクセルを踏み込むと、重量感のある音とともに力強い加速が始まる。2.5リッターは軽やかな動きだったが、こちらは重厚な感覚で乗り心地は明確に硬い。8段ATはかすかな回転の変化を伴う繊細な変速を繰り返す。

ロイヤルでは後席にエアコンやオーディオの操作パネルがあったが、アスリートでは省かれている。前席のシートバックに大きな取っ手が付けられているのも、ロイヤルだけである。ドライバーズカーとしての性格をはっきりさせるため、そういったディテールでも差別化を試みている。

ハイブリッドモデルはまだ生産が始まっておらず、この日用意されていたクルマにはナンバーが付いていなかったため富士スピードウェイ構内のみでの試乗となった。先代でもハイブリッドモデルは存在したが、3.5リッターエンジンとの組み合わせだった。その結果高価格となり、量販グレードにはならなかった。今回は4気筒エンジンのシステムとなり、410万円から手に入れることができる。幅広い層に受け入れられるはずだ。

FR専用のハイブリッドシステムの売りは、もちろん低燃費である。JC08モードでリッター23.2kmという数字は、ガソリン車(2.5リッターが11.4kmで、3.5リッターが9.6km。いずれもFR車)の2倍以上という圧倒的なものだ。それでいて、加速力は従来の3リッターV6を上回るという。178psのエンジンと143psのモーターでもたらされる最高出力は220psで、確かに力強い加速を見せる。微速での静粛性は2.5リッターのガソリン車に譲るものの、EVモードを用いれば滑らかさで優位に立つ。

一番の美点は盤石

電池を積むことでスペースをとられるのがハイブリッド車の弱点だが、デメリットは最小限に抑え込んだ。ガソリン車と比べてトランクの高さと幅は変わらず、長さのみ1135mmに対して755mmと短くなる。それでも450リッターを確保していて、ガソリン車の552リッターから102リッターの減少にとどめたのだ(数値は、いずれもリアエアコン非装着車)。ゴルフバッグ4つを収納することができ、実用的には十分な容量だろう。となれば、ハイブリッドが主力モデルとなるのは必然である。

安全装備にも目が配られている。夜間に先行車両の動きに合わせてヘッドライトを操作する「アダプティブハイビームシステム」や車両の周囲の状況を画面に映し出す「パノラミックビューモニター」などが新たに採用された。アクセルを踏み込んだまま異常なシフト操作をするとエンジン出力を抑制する「ドライブスタートコントロール」は全車に標準装備されている。

ミリ波レーダーによる「プリクラッシュセーフティシステム」は従来通りで、さらに「インテリジェントクリアランスソナー」が加わった。元からあった周囲の障害物を感知するソナーを利用したもので、ペダルの踏み間違いなどによる衝突被害を軽減する。この装備をセットに入れた「アドバンストパッケージ」が設定されていて、これは「レザーシートパッケージ」よりはるかに安いオプションだ。特設コースで実際に作動させてみて、実によくできたシステムであることを確認した。不慮の事故を防ぐために、お金を払う価値は十分にある。

トヨタを代表するクルマとして、革新を担ってきたのがクラウンだ。エクステリアデザインに目がいきがちだが、パワートレインから安全装備まで先進機能が盛り込まれている。大きな変革がもたらされたのは確かだ。ただ、脈々とつちかわれてきた“クラウンらしさ”が消えたわけではない。全幅が1800mmを超えないという不文律は今回も守られたし、一番の美点である乗り心地と静粛性は盤石だ。

改革ばかりがもてはやされる昨今だが、ほとんどが上っ面だけなのはただの掛け声にすぎないからだ。何かを変えるためには、根幹がしっかりしていなければならない。57年、14代という重みがあるからこそ、クラウンは変わることができる。

(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

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