BMW製スポーツカーの“最高峰”

2013年というかなり早い段階に、新たな自動車の未来を切り開くべくBMWから登場した「i8」。ご存じの方も多いと思うが、フロントにモーターを搭載し、1.5リッターの直列3気筒直噴ターボをミッドマウントして4輪を駆動する、プラグインハイブリッドの、平べったくて近未来的なスポーツカーである。

これがこのたびデビュー5年目にしてマイナーチェンジを施され、走行性能が大きく高められた。さらには派生モデルとして「ロードスター」もラインナップ。スペインはマヨルカ島でわれわれに試乗の機会が与えられたので、詳細をリポートしたいと思う。

「世界有数のリゾート地」で、「プラグインハイブリッド」を積んだ「オープン2シーターの高級スポーツカー」に乗る。今回の試乗会における特徴をいくつかポンポンと並べ立てるだけで、i8というクルマの立ち位置が自然と推し量れるというものだろう。

車両価格はクーペが2093万円、ロードスターが2231万円。ポルシェでいえば「911ターボ」(2267万円)や「911 GT3」(2115万円)に匹敵する、BMWとしては最も高額なスポーツカーであるi8。それだけに相手とするのはこうしたリゾート地に来て初夏を満喫する人々であることは確かだ。しかしその中身はというと、実にBMWらしい誠実さで構築されていて、それが何より筆者の心をホッとさせたのであった。

i8の魅力を高める2つのトピックス

今回の変更点は大きく2つ。ひとつはパワーユニット系のポテンシャルアップである。動力源となるリチウムイオンバッテリーはその容量が13Ahマシの33Ahとなり、モーターのパワーは12ps(9kW)アップの143ps(105kW)となった。

BMW開発陣によれば、現状の直列3気筒ターボは欧州でも高く評価されているユニットであり、これをさらに磨き上げるよりは、EV性能を伸ばすことに重きを置いたとのこと。よって車体中央に搭載される1.5リッター直噴ターボの性能は231ps/320Nmのキャリーオーバーとなり、システム出力としては純粋に12ps増えて374psとなった。

これにより0-100km/h加速は今回試乗したロードスターで4.6秒(クーペは4.4秒)、最高速は250km/hとなる(クーペも同じ)。またその燃費は欧州仕様のi8で2リッター/100km(EU6で測定。クーペは1.8リッター/100km)。CO2排出量は46g/km(同42g/km)となっている。“純EV”での航続距離は、従来の35kmから、53km(クーペは55km)まで伸ばされた。

こうした動力性能の向上に華を添えたのが、先にも述べたロードスターの登場。これが2つ目の変更点である。

車内のスイッチを押し続ければ15秒でフルオープンとなる幌(ほろ)システムは、開いたルーフをシート後部へ縦に収納するのがひとつの特徴。その際も座席後部のラゲッジルーム容量は犠牲にならず、トノカバーで覆われたリアビューの美観が全く損なわれないことに好感が持てた。これはまさに3気筒という小さなエンジンを搭載したからできた業であるという。

また幌の骨格は必要な剛性を確保しながらも、可能な限り肉薄に作られているのだが、その芸術品とすら思えるパーツの一部には、初めて3Dプリンターが用いられたそうだ。こうした小さな努力の積み重ねによって、i8ロードスターはその車重が1595kg(DIN規格)と、クーペに対して60kg増しで抑えられた。

足まわりに見る従来モデルからの進化

直接i8クーペとの比較試乗は行わなかったが、実際にi8ロードスターを走らせた印象は素晴らしかった。カーボンモノコックはそのルーフがバッサリと切り落とされているわけだが、極太のサイドシルが高いボディー剛性を担保しつつ、サスペンションも上手に路面からの入力を吸収しきっているのだろう。その乗り心地は極めて穏やか、かつ上質だ。

感激したのはハンドリングがマイナーチェンジ前のクーペをも凌駕(りょうが)するリニアリティーを持っていたこと。決して攻撃的な反応は見せず、しかしデッドゾーンのない、ミドシップらしいステア応答性によって、ノーズが素直に動いて車体全体の動きを作り出してくれる。だからアクセルオフやブレーキングによってリズムが作りやすく、コーナーの曲率を読みながらクルマを曲げていくと、飛ばしても飛ばさなくてもその質感がじっくり、トコトン味わえる。その際リアサスペンションは必要以上に車体のモーメントを抑え込まず適度に伸びながらリアタイヤの接地を保ってくれる。

カーブでの“曲がり感”には4WD特有の頑固さがなく、あくまでこれがミドシップスポーツの軽快さを黒子的に補佐しているのだとわかる。この素性を補う4WD制御は「M5」(FRベースの4WD)にも通じるもので、しなやかな中にもダイナミズムを感じるハンドリングは、「5シリーズ」や「7シリーズ」から始まった新世代BMWのテイストである。

どうやらこの素直な動きは、今回リアまわりの改善を行った結果のようだ。その詳細は明らかにされていないがサブフレームを取り付ける大型のブッシュやそのまわりの剛性を最適化した様子で、以前は板の上に乗っていたかのような乗り心地までもが値段相応に改善されていたのは朗報だろう。

“駆けぬける歓び”のための電動化

そしてこの気持ちよさをフルオープンで味わえば、新たなスポーツカーの世界観が大きく開けてくる。他のモデルと共通のディテールを持つシフトレバーを左に倒せばメーターは真っ赤なスポーツモードへと変わり、エンジンはハイブーストモードへ。直列3気筒ターボのサウンドがマイクによって増幅されるのは子供っぽいと感じていたのだが、オープンエアでそのサウンドを聞くとこれがなかなか堂に入っている。聞くところによるとそのサウンドは擬似的に作られた偽物ではなく、このエンジンの雑味をカットして、エモーショナルな部分だけを抽出・増幅したものらしい。エンジンフードの中で響くサウンドをスピーカー越しに聞いていると思えば、この方法もありなのだろう。エキゾーストノートを周囲にまき散らさないという意味でも、よく考えられた手法だと言えるかもしれない。

試乗ルート後半の高速道路でも、i8の注目度はハンパなかった。リゾート地ということもあってか観衆は上品で、誰もが楽しそうにこちらの一挙手一投足を眺めている感じだ。その中でi8は、エモーショナルな走りを披露する。アクセルに即反応するモーターの加速力は、目の前が開けた瞬間のショータイムを華麗に演出した。上限130km/hの道路ではそのポテンシャルを完全に解放することはできなかったけれど、最高速250km/hという数字はどうやらウソではなさそうだ。ワイドトレッドと低い重心が織りなす安定感は、山岳地域でのロングコーナーの繰り返しで、i8の実力を、負けじと走るミドルサルーンのオーナーたちに見せつけた。

総じてこのi8ロードスター、同価格帯の“非電動型”のライバルたちと比べると非力でありレーシングコンシャスではないが、オープンロードでその魅力を味わうための素性はシッカリと身につけている。

ひとしきりの高揚感を満喫したあとシフトレバーを元に戻せば、極めて静寂な世界へと戻ることができるのも、i8ロードスターの大きな魅力だった。そしてこの両極端な二面性こそが、BMWがi8というスポーツカーに込めた“次世代のスポーツカー像”なのであると確信した。つまり彼らにとって電動化は走りの喜びを削(そ)ぐものではなく、むしろ際立たせるもの。冒頭にも記したがそこにかなり早い段階で気づき、2013年にその第一歩を踏み出したことにi8の意義はあった。

そして今回その走りがさらに磨き込まれ、彼らはまた一歩その理想へと近づくことができたのだ。

(文=山田弘樹/写真=BMW/編集=堀田剛資)

テスト車のデータ

BMW i8ロードスター

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4689×1942×1291mm
ホイールベース:2800mm
車重:1595kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6AT
エンジン最高出力:231ps(170kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:320Nm(32.6kgm)/3700rpm
モーター最高出力:143ps(105kW)/4800rpm
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)
タイヤ:(前)215/45R20 95W/(後)245/40R20 99W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:2.0リッター/100km(50km/リッター、NEDCサイクル)
価格:2231万円
オプション装備:--
※価格を除き、数値は欧州仕様のもの。

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
走行状態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 

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