目的は“テコ入れ”ではない

発売直後から人気爆発の新型ジムニーは一時、納車待ちが1年以上(!)、より生産台数の少ない(というか、事実上同じクルマである海外向けジムニーが優先される)ジムニーシエラ(以下、シエラ)にいたっては1年半以上(!!)……ともいわれてきた。

同車の国内販売目標は、そもそも軽自動車(以下、軽)のジムニーで年間1万5000台、シエラが同1200台で、海外向けも含めて全数生産する湖西工場のラインはフル稼働しても月産4000台が限界だった。それに対して、2018年7月に国内発売された新型ジムニー/シエラの受注台数は、発売1カ月で販売目標の1年分を超える合計1万6000台にまで達した。つまり、スタートダッシュがすごすぎてパニックにおちいったわけだ。

それがあくまで瞬間風速だとしても、さすがにシブチン(失礼!)のスズキも現況は放置できない……と、ジムニーの生産能力を年明けにも月間7000台(年間8万4000台)まで増強することを決めた(と報じられた)。実際、少なくとも軽ジムニーの納期はすでに短縮傾向にあるそうで、さらに増産ともなれば、今の異常事態も解消されることだろう。

新型ジムニーの担当者によると、先代の販売実績は「発売直後に国内だけで年間3万台を超えたのをピークに、最終的には国内で1万4000~1万5000台、海外向けで約1万5000台に落ち着いた」そうだ。ジムニーがすごいのは、そうして落ち着いた後の15年以上の間、グローバルで年間3万台という規模をピタリと維持したことだ。あからさまに増えることはなかったが、逆にリーマンショックやモデル末期も関係なく、最後の年まで見事なほどの横ばいだったという。

そんなド安定銘柄に20年ぶりのフルモデルチェンジが実施されたのは、横滑り防止装置の全車標準化などといった時代に合わせた安全対策が「いよいよ“後追加”ではキツくなった」のが直接的なキッカケで、拡販をねらったものではない。そう考えれば、フル稼働で月間4000台=年間4万8000台という当初の生産能力の見積もりも、結果的には甘すぎたのだが「今回の爆発的人気はさすがに想定外でしょ?」と擁護したくなるのも事実だ。

いろんな場所が先祖がえり

今回のモデルチェンジにあたって既納ユーザーにアンケートしたところ、なるほど使い勝手や意匠に対する細かい改善要望の声はあったものの、基本論調としては「下手に変えてほしくない。とにかくこのまま作り続けてほしい」という意見でほぼ満場一致状態だったらしい。

というわけで、新型ジムニーのハードウエアはほぼすべて新しいが、技術コンセプトやクルマのねらいは20年前とほとんど変わってない。それどころか、四角四面のスタイリングや4WDの切り替えレバー(先代ではダッシュボードの電磁スイッチ)などは“原点回帰”というか、ある意味で“復古調”とすら解釈できそうである。

こうしたデザインや4WD切り替えについては、チーフエンジニア氏が「先代は1998年という発売時期もあってか、空力デザインや4WD切り替えなど、乗用車化を強く意識したんです。当時はそれもよかったのですが……」と、ちょっと反省すべき新型での修正ポイントと認識していたのが興味深い。

ちなみに、そんな1998年前後といえば、「トヨタRAV4」や「ホンダCR-V」などのコンパクトSUV(当時はライトクロカン)が世界的にバカ売れ中であり、それを受けて高級SUVの元祖となる「トヨタ・ハリアー」(海外名:レクサスRX)が世に出た時期……と思い返すと、チーフエンジニア氏の先代ジムニー評にもなるほどと思うところはある。

いずれにしても、新型ジムニーには、今どきのモデルチェンジとしては異例ともいえる“先祖がえり”したポイントが多い。

ランニングコストだけが理由ではない

今回試乗したジムニーは軽版の5段MT仕様である。軽ジムニーはいうまでもなく日本専用商品で、日本は世界で唯一、軽ジムニーとシエラ(≒海外向けジムニー)が選択可能という幸せな市場である。ただ、日本で売れるジムニーの9割以上が軽で、ジムニー全需では軽とシエラ+海外向けがそれぞれ半々……というのが先代での実績だった。

それもあって、新型ジムニーの企画段階では「軽とシエラで車体から作り分ける」という検討もなくはなかったそうだ。ただ、国内外を問わない「下手に変えるべからず」という大多数の声もあって、結局は今回も「ジムニーは軽ありき」となった。で、両車の作り分けも、トレッド(とそれを包み込むオーバーフェンダー)とエンジンのみ……という従来どおりの設計に落ち着いた。

余裕ある自然吸気エンジンとワイドトレッドによって、絶対的な旋回性能や静粛性ではシエラのほうが有利なのは自明だ。別の機会に新型の軽ジムニーとシエラを深い砂地で走らせる機会もあったのだが、広い場所で存分に走り回れるようなオフロードでは、踏ん張りがきくシエラのほうが心理的な安心感も明らかに上ではあった。

いっぽうで、軽ジムニーがあからさまに不安だったかというとそうでもない。最低地上高や“〇〇アングル”などの各数値は軽とシエラで実質的に変わりないので、物理的にクリアできる障害物や凹凸にも差はない。それに、トレッドやタイヤが細くなることが、走りでも逆に奏功するケースもある。シエラがまるでチューニングカーみたくチョロつくワダチ路面などでは、軽ジムニーのほうが優秀な直進性を披露したりもする。

だいたいにして、あえてジムニーを必要とするプロフェッショナルが求めるリアルな走破性には、曲がりくねった登山道や獣道に毛が生えたような林道などに分け入ることができる能力も含まれる。先進国ではトップクラスで山が多く森林比率が高い日本において、軽ジムニーが重宝される理由は、ランニングコストの安さだけではない……といえなくもない。

90km/hくらいで流すのがちょうどいい

さすがに20年ぶりの完全刷新ともなれば、現代風に洗練された部分は少なくない。新型ジムニーの内装調度は高級ではないものの、たとえば助手席前のグラブバーも握り部分にだけはきちんとクッション素材を使うなど、良心的だ。チルトのみではあってもステアリングの位置調整ができるようになったことで、ドラポジは飛躍的に快適かつ機能的になった。

しつこいようだが「このままでいい」との意見が大多数だったユーザーアンケートでも、荷室だけは改善を望む声が目立ったそうで、そこははっきりと改良された。……といっても、車体サイズや骨格構造は変わらないのだから容量を飛躍的に拡大することは不可能。かわりに、後席を倒したときに、すみずみまでフラットに使いきれる形状(最廉価グレード「XG」を除く)にしたのが自慢だ。

0.66リッター3気筒ターボはまるごと最新鋭のR06A型となって、エンジン単体の振動騒音面や柔軟性では明らかに進化した。ただ、それに合わせて高められた高速(4速と5速)ギアレシオや、先代より50kgほど増えた車重などに相殺されて、トータルでの体感動力性能は「旧型とほぼ同じか、少し下がった?」というのが正直なところだ。

もちろん、その気になれば120~130km/h近くまで苦もなく加速する地力はあるし、高速では明らかに静かにはなっている。しかし、先代よりハイギアードになったとはいえ、100km/hだと5速でも3800rpmまで回ってしまう。加えてシャシーの安定性や見た目どおりに小さくない空気抵抗もあって、法的な制限速度はともかく、無意識でいると、いつしか90km/hくらいで巡航している。現代のクルマとしてはちょっと遅めの速度がちょうどよく落ち着くのだ。そのぶん高速でのスピード違反の不安が減るのはメリットだが、同時に、そこがジムニーと現代の乗用車設計SUVとで良くも悪くも一線を画すポイントである。

“オフ”の進化が“オン”にも効いている

下まわりのランニングシャシーもすべて新しいが、独立ラダーフレーム構造はもちろん、前後ともリジッドのサスペンション、副変速機付きパートタイム4WD、路面からのキックバックを遮断できるリサーキュレーティングボール式ステアリング……といったオフローダー特有のメカ形式はすべて継承される。

同時期に刷新された「メルセデス・ベンツGクラス」もある意味でジムニー的なカリスマ性を売りにする。なのに、フロントが独立懸架化されてステアリングもラック&ピニオン形式になった新型Gクラスに対しては「ひよったな」と冷ややかな微笑をおくるのが、ジムニーファンの正しい態度だろう(?)。

そんなジムニーゆえに、フレームねじり剛性の大幅向上(先代比で約1.5倍)や新たに追加されたステアリングダンパーといった今回の技術的ハイライトも、第一義的には悪路のため……という姿勢をくずさないのが、支持者にはなんとも頼もしい態度である。フレーム剛性アップも、極限状態でのトラクションを確保するのが最大目的だったという。

とはいえ、こうしたシャシーへの手当ては舗装路での“普段走り”にもきっちり効いている。たとえば、路面の凹凸をそれなりのスピードで通過するときのドシンバタンは新型で明らかに小さくなった。ステアリングフィールにデッド感があるのはリサーキュレーティングボール式の宿命であり、ステアリングダンパーの追加で手に伝わる振動が減ったのも“接地感”という意味ではデメリットになり得るが、明らかに向上した直進性はこのステアリングダンパーの恩恵である。フレームの剛性アップがクルマの動きをより正確にしたことで、ステアリングのフィードバックまで鮮明になったように感じる心理効果ももたらしている。

クルマ趣味に目覚めるかも

……と、細かいところでは乗用SUV的な意味での洗練や改良がなされたといえなくもない新型ジムニーだが、同時に、いまだに驚くほど頑固で古典的なオフローダーでもある。

前記のように4速と5速のハイギアード化で高速静粛性を引き上げているギアボックスにしても、下の1~3速はそれとは対照的に先代同等のローギアだ。これは低いギアを使用したはいずるような速度で、過給ラグが小さくリニアな高回転域を使うための調律である。そのせいで、普段乗りでは騒々しくもあるのだが、ハードな悪路ではすこぶる具合がいいのだ。

そして、これもフレーム剛性の恩恵なのか、ロールスピードも先代以上に抑制されて安定した感はある。とはいえロール角そのものが減少しているわけではないし、凹凸が連続する路面に不用意に突っ込んでいくと、上屋がてきめんに大きく揺すられてドシンバタンと暴れまくる。このあたりの柔軟性は、しなやかな独立サスペンションをもつ乗用SUVにはまるでかなわない。

新型ジムニーはなるほど進化した部分も多いのだが、同時に、乗り心地、静粛性、空力、操縦安定性、室内空間、燃費……などは、クルマに興味のない向きに「今どきの乗用車でこれかよ!」とツッコミを入れられてもしかたのないレベルなのも事実だ。まあ、そうして門外漢にツッコミを入れられる部分ほど、支持者にとってはジムニーらしい美点でもあるのだが……。

そんな新型ジムニーが、供給が追いつかないほどの人気だというのだから、ネット時代はいきなりナニに火がつくのか分からない。渡辺敏史さんも書かれていたように、新型ジムニーの現状は、正直なところ「売れすぎじゃね?」とも思う。世間の空気に流されて、これを「ハスラー」と同じノリで買ってしまったら、大きく後悔するケースもあろう。

ただ、同時にハスラーと間違ってジムニーを買ってしまったことで、なにかしらのクルマ趣味の世界に目覚める人がひとりでも増えてくれれば、それはそれで喜ばしいことである。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

テスト車のデータ

スズキ・ジムニーXC

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1725mm
ホイールベース:2250mm
車重:1030kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:96Nm(9.8kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)175/80R16 91S/(後)175/80R16 91S(ブリヂストン・デューラーH/T II 684)
燃費:16.2km/リッター(WLTCモード)
価格:174万4200円/テスト車=203万1534円
オプション装備:ボディーカラー<ブリスクブルーメタリック ブラック2トーンルーフ>(4万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0142円)/パナソニック スタンダードプラスワイドナビセット(15万7518円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット+USB接続ケーブル(7398円)/ドライブレコーダー(3万7260円)

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1785km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:400.9km
使用燃料:30.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

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